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山本太郎「感染症と文明ー共生への道-」 [読書(教養書・実用書)]


感染症と文明――共生への道 (岩波新書)

感染症と文明――共生への道 (岩波新書)

  • 作者: 山本 太郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/06/22
  • メディア: 新書



先日読んだ加藤茂孝「続・人類と感染症の歴史 ー新たな恐怖に備えるー」 は病気別に歴史を語っていましたが、本書は歴史の流れの中で感染症を見ていくもの。

個別個別の事例だけではなく、全体を通じた人類とウイルスの関係が深いこと。

もともと狩猟採集の生活をしていた頃は、人類はずっと感染症と縁のない生活をしていました。
しかし、集住・定住を始めると、人間同士だけではなく糞便とも接触する機会が増加してしまい、急性感染症との戦いが始まります。

しかし、ある集団がある感染症を持っている(≒一定の耐性を持っている)ことは、他の集団を攻撃する武器でもあり、他の集団からの攻撃を防御する武器ともあります。

昔はそれぞれの文明が持っている感染症は違ったらしいです。
人類はアメリカ大陸にベーリング海峡を通って渡ったと考えられていますが、その過程で一定の気温が必要な感染症は着いてこられなかったのではないかとも考えられるそうです。

中世のヨーロッパのペストは有名ですが、東ローマ帝国が版図を拡大できず人口を減らしてしまったこと、イスラムがサハラ以南に拡大できなかったこと、背景に感染症があるのではないかというのは興味深いところです。

大航海時代が訪れ、ヨーロッパが植民地化を始めると帝国医療・植民地医学と呼ばれる分野が勃興します。
最初はアフリカ(特に中部でしょう)にいったヨーロッパ人は次々と熱病で命を落としていていましたが、キニーネによるマラリア治療により劇的に改善。
感染症の対策がどんどん発展していきます。

20世紀前半の発見、進歩は著しいものがあります。
天然痘の撲滅は冷戦下、米ソ協調によって実施されました。
こうして感染症の脅威から人類は解放されたと思いきや、開発に伴い、新興感染症が現れてきます。

感染症が死因の座から引きずり下ろされてきたと思ったら、現在のコロナウイルス騒ぎです。

しかし、感染症はまだまだ謎が多く、大流行したと思うとなぜかどこともなく消えてしまうこともあるのです。
この理由は謎でしかありません。

進化医学という分野もあるらしい。
通常、感染症は拡がると共に弱毒化していく物なのに、スペイン風邪の3回の大流行で、最初の流行はより2回目の流行で致死率が高くなり、3回目の流行では再び低下。
人間の行動が感染症の原因に淘汰圧を及ぼしているのではないか。
マラリアの話でいえば、感染した人間を重症にして動けくしたほうが蚊に刺されやすくなって感染症からすれば有利ですが、皆が蚊帳で守るようになると、軽症で出歩いてもらった方が感染症としては拡大しやすくなります。

エピローグは「共生の道」という意味深な題が与えられています。
感染症と人類は、快適ではないが共生するしかないのではないか、という問いかけです。

感染症は人類の生活形態が生んだものであるのは上記の通り。
いくつかの感染症は動物由来であっても、もはや人間に感染することしかできなくなってしまっています。
人間の生活や対応が変わればウイルスも変わる。互いに影響を及ぼしている関係にあります。

今回のコロナウイルスでも、「これを機に人類の行動様式が変わる!」といった主張も散見しますが、そんなに簡単ではない印象です。
確かに変わるかも知れませんが、人類の行動様式が変われば、その行動様式に適応した感染症が現れる、それが逃げられない運命のようです。
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