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ウィリアム・H・マクニール「疫病と世界史」 [読書(教養書・実用書)]


疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/12/01
  • メディア: 文庫



疫病と世界史 下 (中公文庫 マ 10-2)

疫病と世界史 下 (中公文庫 マ 10-2)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/12/01
  • メディア: 文庫



感染症シリーズ。
これも文庫として2007年が初版ですが、2020年3月30日に第7刷となっています。

ただ、もともとは1975年(!)に書かれた物のようで、1977年に書かれた序にはエイズについて滔々と書かれていて、そこにも時代を感じます。
また、最初の人類の起源、出アフリカのあたりも現在の知見からすると古くささは否めないところです。

ただ、「世界史」と同様、一人によって書かれた通史という意味で、全体像をつかめるところは良いところです。

感染症がスペインの中南米征服を始めとする歴史に大きな影響を与えてきた、というのはジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」で衝撃を受けましたが、この考え方自体は彼のオリジナルではなく、以前からあったと言うことですね。

全体構成は、有史以前から、歴史時代、紀元前500年から紀元1200年まで、1200~1500年、1500~1700年、1700年~とおおくくりに章立てされています。
中世ヨーロッパのペストや、20世紀初頭のスペイン風邪といったトピックを並べるというより、時代を俯瞰しているところに特徴があると思います。

文明と周縁の関係で理解するという考え方は「世界史」と通底しているように感じます。さらに本書で提示されている面白い概念が、マクロ寄生、ミクロ寄生。
後者はまさに感染症を意味していますが、後者は支配層と被支配層といった社会システムを示しています。これらが表裏一体として歴史が語られます。

有史以前に人類がいたアフリカは熱帯で感染症にさいなまれ、生態系の一部として量がコントロールされていました。
しかし、アフリカを出て温帯に打って出た途端、ずっと感染症のリスクが低くなり、拡がっていきます。
そしていくつかの場所で文明を興すことになります。
メソポタミアで人口50万人に達したとき、麻疹が流行り続ける規模にも達してしまいます。
中国では感染症の多さが華南への展開を阻みます。
インダス文明からインドに拡がると感染症に遭遇し、それが異民族間での接触を最小化するカースト制の原因ではないか、とも。
そして、地中海世界は乾燥しており、水辺に裸足で入る農業も行われず、感染症のリスクが低い地域だったのではないかと考えられます。

ここまでの段階で、人口集中が起きて感染症が流行り始めていても、各文明でそれぞれ違った感染症を持って、それとのバランスを保っていたのではないかと考えられます。
しかし、紀元をはさんだ時代にユーラシア大陸の東西の交流が生まれ始め、互いの感染症が行き来して甚大な被害を及ぼすようになります。
アテナイの崩壊、ローマ帝国での疫病。キススト教の国教化や仏教の広がりなど、疫病で苦しんでいたことと関係があるのではないかとさえ考えられます。

そして13世紀にモンゴルがユーラシアを席巻し、東西の交流が活発になっていった後、ペストがヨーロッパを襲うことになります。ヨーロッパで舟運が発達してきていたことも、原因にあるようです。
ネズミ、ノミ、人間の間で行き来するペストは船の移動と相性が良いのです。
こうした甚大な影響を残しつつ、旧世界の感染症は、共通化、いわばグローバルスタンダードが確立していくことになります。

そして、新世界であるアメリカと旧世界の接触が生じ、抵抗力を持たない新世界の人々が感染症に斃れてしまったのは今ではよく知られている歴史です。

そこから現代に到るまでの歴史は、スペイン風邪や医療の発展以外の部分も触れられていて新鮮でした。
種痘が技術として確立されてからそれが社会に受け入れられる過程は、イギリス、アメリカでどのように行われたのか。
インドの風土病だったコレラが交通網の発達で全世界で流行し、それがヨーロッパの上下水道の整備にいかに影響したのか。

特に近代においては軍との関係が強いです。
感染症は人が移動する貿易、そして多様な人が集まり遠征する軍と古来からも深く深く結びついていたのですね。
日露戦争で日本が兵隊に予防接種を打ったことも他国にとって大きなレッスンになったようです。

鬼頭 宏「人口から読む日本の歴史」では、江戸のような都市は感染症の流行で人が亡くなってしまうこともあり、蟻地獄のように人口を吸収していたことが書かれています。

これは世界でも同様だったようで、都市自体が人口流入なしに人口を維持できるようになったのはせいぜい1900年頃だそうです。そこから世界の人口の急増が始まっていきます。


読み終えて改めて、感染症が人類の歴史、習慣や宗教も含めた文化に与えた影響が大きかったことを感じさせられます。
一見戦争や社会の混乱によって人口が減少したようにみえる時期も、大方感染症のせいに違いない、ということです。

新型コロナウイルスはこれまでの歴史における流行に比べると人口に影響を与えるほどにはなっていないとは言えるでしょうが、やはり人間の行動様式に影響を与えるのではないかという気もしてきました。
そして、ウイルスとのつきあいは、今後の歴史にも続いていく運命のようです。
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