島泰三「魚食の人類史」 [読書(教養書・実用書)]
魚食の人類史: 出アフリカから日本列島へ (NHK BOOKS)
- 作者: 泰三, 島
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2020/07/27
- メディア: 単行本
日本人が普段当たり前のように食べている魚。
しかし、霊長類の食べ物として考えるとかなり特殊なものだそうです。
猿は魚を食べない。
カニクイザルのようにカニを食べる種があったり、貝を食べることがあっても魚は食べない。
これまで猿が魚を食べたことが観察されたのは飼育下とかたまたま打ち上げられた魚があったとか特殊な例に限られる。
猿は雑食で種によって食べるものが異なるけれども、共通しているものは果物。
では、なぜホモ・サピエンスは魚を食べるのか?
ホモ・サピエンスが現れたときには、すでに地球上には既にホモ・エレクツスやホモ・ネアンデルターロンシス(ネアンデルタール人)がいました。
類人猿から進化した人類は強力になり、生態系の頂点に立っていました。
ネアンデルタール人はライオンさえ主要な食料にしていたほどで、ホモ・サピエンスより身体が大きく、握力も強かったとことが知られています。
そうした中で、身体が華奢なホモ・サピエンスはどうしたか。
水辺で食料を獲るという生態系のニッチを見いだしたのではないか、と。
最後の氷河期で気候が激変する中でも、肉食獣を追い求めたネアンデルタール人は絶滅した一方、食べ物の幅が広いホモ・サピエンスは生き残ることができました。
ホモ・サピエンスのヨードの必要量は、肉や野菜を食べるだけではとても補えず、魚介類なしには成立しないものであるそうです。
これも長い間、魚介類と植物性の食事を続けて私たちの身体が進化してきたことを示しているのではないか、と。
考えてみれば、これほど皆が肉を食べる生活、さらには穀類を中心とした食生活を始めたのは人類の歴史の中ではつい最近のことです。
牛乳を飲むというのも特殊な習慣。多くの哺乳類は離乳すると乳糖を消化できなくなっていくので、大人になっても乳糖耐性な方が特殊。インド・ヨーロッパ系の人の特徴でもあるそうです。
よく、魚と野菜が中心の食事が健康に良いと言われますが、それがそもそも我々の進化してきた過程の食事だからかも知れないですね。
著者はこの分野をずっと専門としている研究者ではなく、魚屋に生まれたサルの研究者。
定説を淡々と述べるのではなく、著者の個人的な体験を織り交ぜながら、関連の研究成果をたどっていく構成も読んでいて面白いです。
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