高橋和夫「アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図」 [読書(教養書・実用書)]
アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図 (講談社現代新書)
- 作者: 高橋 和夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/01/16
- メディア: 新書
イスラエル旅行から帰ってきて、部屋に積まれていた本から引っ張り直して読みました。
もしかしたら一度読んでいたのかも知れませんが、地名や地形、現地の博物館で見た物、人をイメージするとおもしろいし、いろいろなものが結びついていくようで、すいすいと読めました。
概説書であるという前書きでの断りがありますが、国際政治全体という視点からの中東政治の解説であり、単なる中東での事件の羅列ではない、動的な歴史が感じられます。
・イスラエルに入植していったヨーロッパからのユダヤ人は、パレスチナ人(地主)から土地を買い取り、もともとはホワイトカラーであったのに農業に従事していった。ヨーロッパでは差別され、土地を所有できなかった歴史を背景にしている。結果として、小作のパレスチナ人を追い出すことになった。
・1948年の第一次中東戦争(独立戦争)は、アメリカのトルーマン大統領にとって、ユダヤ人が多いニューヨーク州の選挙を控えたタイミングであり、アメリカは直ちにイスラエルの建国を承認した。
・1956年の第二次中東戦争(スエズ危機)では、アメリカのアイゼンハワー大統領は共和党でユダヤ票をあてにしないでよい状況にあり、戦争を起こしたイスラエル、イギリス、フランスに強硬に反対することとなった。
・1967年の第三次中東戦争では、先制攻撃したイスラエル軍の電撃作戦の前にアラブは退廃し、多くの土地を奪われてしまった。
イスラエルは国民が少なく、予備役によって十分な兵力を動員するには一定の時間がかかり、かつそれを長期間維持すると経済がダメージを受ける。従って、先制攻撃への誘因がある。
・1973年の第四次中東戦争は、緒戦でアラブが優位であり、イスラエルはアメリカに軍事援助を求めたが、アメリカは直ちにそれに対応しなかった。しかし、イスラエルはこのときには核武装しており、核兵器使用を辞さない態度を示したために軍事援助をすることとなった。
・核武装したイスラエルを消滅させることは非現実的であり、エジプトはイスラエルと和平を行った。しかし、その結果としてイスラエルは南の圧力を気にする必要が無くなり、後のレバノン内政への干渉を招いた。
・イスラエル社会は上位にヨーロッパからの移民であるアシュケナジム、その次にイスラム圏からの移民のセファルディム、そして最底辺にアラブ人という階層社会。しかし、下になるほど出生率が高いために社会が変質して行っている。保守強硬派が政権を握るようになり、アメリカ(のユダヤ人)がイスラエルを見る目も変わってきている。
・実際問題として、ユダヤ人は税金が高く徴兵があるイスラエルよりもアメリカに移民する傾向がある。アメリカからイスラエルに移民してもかなりが戻ってしまう。ソ連崩壊時にイスラエルからの移民が急増したのは、アメリカのユダヤ人のロビーによってアメリカがユダヤ人の移民を制限したため。
このようにユダヤ人のイスラエルへの移民は思うように進まない一方で、上述の出生率の違いがあるため、イスラエル社会はどんどん変わっていく。
・ソ連が崩壊して冷戦も終わり、アラブの後ろ盾がなくなる。産油国からPLOへの支援もこれまで通りではなくなる。アメリカのイスラエルへの同情も変化している。結果として関係国は和平交渉につかざるを得ない状況ができた。
さて、この本はここで止まっています。
私が持っているのは25刷ですが、第1刷は1992年です。
もう20年以上も前に書かれたということになります。湾岸戦争の直後です。
関連の本を見てみても、それ以降にこの類いの本が多く出されているようでもないようです。
大きな戦争が起きていないからか、あるいは日本人の関心が低下しているからでしょうか。
コメント 0