植木雅俊「仏教、本当の教え」 [読書(教養書・実用書)]
仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)
- 作者: 植木 雅俊
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/10/22
- メディア: 新書
仏教は世界宗教の一つと言われますが、イスラム教やキリスト教より歴史は古く、紀元前5世紀にインドで生まれたとされます。そこからユーラシア大陸を通って日本に渡ってきたのは6世紀、当然それはオリジナルのままではありません。それを原典をも見ながら論じたのがこの本。
著者は物理で大学院まで行ったものの、途中で仏教に興味が移ってしまい、最後はお茶の水大学で人文科学で男性初の博士を「仏理」でとってしまったというおもしろい経歴を持つ人です。
本の内容は細かい仏典の解釈の比較などもあって難しいところもありますが、全体をさっと読むだけでもなかなかおもしろい。
インドで生まれた仏教は、サンスクリット語やパーリ語で仏典が作られましたが、それが中国語に訳され、それが日本に入ってきます。
当然そこでは翻訳の問題もありますし、内容も「壮大な伝言ゲーム」で変わって伝わっていきます。
本の冒頭にあるのは、北枕は縁起が悪いのか、という話。
日本では、お釈迦様が入滅したときに北枕だったので縁起が悪いとされていますが、そもそもインドでは北に理想の国があり、南に死の国があると考えられていて、みんな北枕で寝ている。だから、お釈迦様も死ぬときに北枕だっただけということらしい。
翻訳についてもややこしい。
そもそも中国語は表意文字の漢字を使っているので、漢訳するときに、中国語に概念がない語には音だけ当てたりする。すると、後世の人は「いや、この字に意味があるに違いない」と解釈してしまったりして、意味が変わってしまう。
日本の場合はさらに、仏典を日本語に訳さず、漢字のまま受け入れるということをやってしまったので、また様々な解釈を生じさせてしまった。
翻訳する時点でも、翻訳者の価値観が反映されてしまうのはやむを得ないところ。もともとの仏教に男尊女卑という考え方はなかったというのが著者の見方だが、中国の儒教思想等の影響を受けて日本に伝わったときには変わってしまっていた。
ヨーロッパでも聖書はギリシャ語やラテン語でしたが、宗教改革の中で各国語に訳されていきました。
その点で、日本の仏教が、仏典を日本語に訳さず受容した、受容したままきてしまったというのは大きな損失のように感じます。
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