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佐藤達生「図説 西洋建築の歴史」 [読書(教養書・実用書)]


図説 西洋建築の歴史 (ふくろうの本/日本の文化)

図説 西洋建築の歴史 (ふくろうの本/日本の文化)

  • 作者: 佐藤 達生
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2005/08/20
  • メディア: 単行本




以前、放送大学の面接授業「西ヨーロッパの教会と修道院建築」を受けて、ロマネスクとゴシックの違いくらいは分かるようになっていました。
http://t-takaya.blog.so-net.ne.jp/2011-04-17

この本では、大本のギリシア建築から順番に説明している。

図や写真を豊富に使っているほか、西ヨーロッパの歴史を一緒に説明しているので、とてもよく理解できる。専門用語が多いのは仕方がないですが、これも一応説明してから使われている。索引があるともっといいと思うけど。

ヨーロッパの建築の歴史をまず、古典系と中世系に分けている。

古典系は、地中海で生まれたギリシア建築に始まり、ローマ建築に受け継がれる。(西)ローマ帝国の崩壊とともにいったん途絶えてしまうが、ルネサンスで再生し、バロック建築、そして新古典主義建築へと続いていく。

中世系は、アルプス以北のゲルマン人の国で発展したもので、ローマ建築に続く初期キリスト教建築から、ロマネスク建築、ゴシック建築と続く。そしてルネサンスで主役の座を譲るが、ゴシック・リヴァイヴァルとしてまた再興する。

そして、古典系と中世系の両者を合わせた歴史主義建築へとつながっていく。


結局、最初のギリシア建築の影響が大きいということになるが、これはかなり特殊なものだったということのようだ。実際にアテネのパルテノン神殿を見ていても、何も気がつかなかったことだが、柱を立てて梁を架ける架構式という構造は、石造に向いていない。梁を見ても重力がかかると下部に引っ張り応力がかかるので、圧縮応力には強いが引っ張り応力には弱い石には向いていない。これは引っ張りにも圧縮にも同程度強い、木造に向いた構造である。石造に向いているのは、壁を組み上げる組積造ということになる。

では、なぜギリシア建築で組積造ではなく架構式なのかといえば、もともと木で作っていたものを石で作ったから。これがその後の様々な変遷の1つのキーポイントとなる。

ローマ建築はアーチに代表されるように石造の技術を発達、進化させた。しかし、美の基準としてはギリシア建築を受け継いでいるので、そのオーダー(柱、梁、軒といった構造)を外観にあたかも貼り付けたような構造になっている。つまり、ギリシア建築では重力を支える機能を有していたオーダーが、ローマ建築では装飾的な意味合いに変わってしまっている。

再度古典系が見直されたルネサンス建築以降の古典系でも同様で、円柱やその上部を横切るエンタブラチュアも装飾に過ぎず、大オーダー、小オーダーの入れ子にしてみたり、エンタブラチュアではなくアーチを円柱が支えるようになってしまったりと変化が進んでいく。

一方、中世系は、建築技術がローマ帝国崩壊後衰退したこともあって、ローマ建築の組積造から、装飾のオーダーをなくしてしまった形から始まる。それがロマネスク建築につながり、さらには内部の線条要素は重力を感じさせない軽さを表現するためのものになっていき、ゴシック建築へと発展する。ゴシック建築は内部にどのような空間を作るかが重視されているため、フライング・バットレス、控え壁というように構造は建築物の外部に押し出されている。この点でも、神殿の「前」で祭事を行っていたギリシア建築と、教会の「中」で典礼を行っていた中世教会との違いが対照的である。


とても良い本ですが、たくさんヨーロッパを旅行する前に読んでおけば良かった。パンテオンの階層ごとの柱頭の違いなんて、全く気がつかなかった。でも、逆にいろいろ旅行した後でなければ実感を持ってなるほど、と読めなかったかも。

この本は西ヨーロッパの建築について説明したものですが、東ヨーロッパやイスラム建築についても興味が湧きます。たとえば、柱頭でアーチを支える様式はイスラム建築でも多く見る気がしますが、それらはどのように関係しているのかどうかとか。

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